肝疾患診療相談センター長
信州大学医学部附属病院消化器内科 教授 田中榮司
信州大学医学部附属病院は平成20年10月1日に長野県における肝疾患診療連携拠点病院の指定を受け、さらに、これに基づく肝疾患診療相談センターを開設しました。肝疾患診療連携拠点病院はウイルス肝炎診療における良質かつ適切な医療を提供するための病診連携体制の中心的な役割を果たすものであり、今後のウイルス肝炎の診療に重要な意味を持ちます。そこで今回は、この拠点病院とウイルス肝炎診療ネットワーク、さらに肝疾患診療相談センターについてご説明します。
厚生労働省では、従来から行ってきた総合的な対策に医療費助成を加えて、平成20年度から新たな肝炎総合対策「肝炎治療7か年計画」を実施しています。この中には以下の5つの重点項目が含まれています。第一は、インターフェロン療法の促進のための環境整備であり、インターフェロン治療に対する医療費の助成を柱にしています。第二は肝炎ウイルス検査の促進であり、保健所における肝炎ウイルス検査の受診勧奨と検査体制の整備や市町村及び保険者等における肝炎ウイルス検査等の実施が盛り込まれています。第三に健康管理の推進と安全・安心の肝炎治療の推進、肝硬変・肝がん患者への対応です。診療体制の整備と拡充による肝炎医療の均てん化が目標であり、各都道府県で「肝疾患診療連携拠点病院」を選定して、医療の連携のほか、患者・キャリア・家族からの相談等に対応する「肝疾患診療相談センター」を設置することとしています。第4は国民に対する正しい知識の普及と理解であり、教育、職場、地域あらゆる方面への正しい知識を普及することが求められています。最後に研究の推進ですが、多様な患者形態に合わせた抗ウイルス治療の適応検討や、その副作用対策の研究などの臨床研究を推進しています。
上記7か年計画の中で、信州大学医学部附属病院は診療拠点病院として以下の活動を行い地域に貢献します。第一はネットワークの構築であり、かかりつけ医、専門医との協力体制を作ります。第二は肝疾患相談センターの設置であり、患者さん、家族、医療機関からの相談に応じます。第三は肝疾患の研修会を開催し啓発活動を行うことです。これらの活動を通して、一人でも多くの患者さんを適切な治療に結びつけることが求められています。
ウイルス肝炎診療ネットワークは、現在、長野県が中心になりこれを立ち上げようとしていますが、次の段階として拠点病院がこれを維持、発展させることになります。ネットワークは拠点病院の他に専門病院、かかりつけ医から構成されます。かかりつけ医は肝炎診療に取り組もうとする意欲のある先生であればどなたでも参加していただく予定です。専門病院の条件はB型およびC型肝炎の抗ウイルス療法が可能で肝細胞癌の早期発見ができる施設です。具体的には、インターフェロン治療が可能で、腹部超音波検査などの画像検査で肝細胞癌のスクリーニングができる施設になります。現在、長野県内には肝臓学会の専門医は37名しかいませんが、必ずしも専門医がいなくても上記の専門的な診療が可能であれば専門病院として登録します。また、条件を満たせば診療所でもパートの専門外来でも登録可能です。条件を厳しくすると専門病院の数は確実に足りなくなりますので、この様な形で専門病院を増やして対応したいと考えています。拠点病院はこのネットワークの中で新しい情報を提供したり、かかりつけ医や専門医療機関の相談に応じ診療の手助けをします。また、クリニカルパスなどを作成し、医療機関の間で患者さんの紹介が円滑に行えるようにします。
ウイルス肝炎の診療ではなぜこの様な病診連携が必要なのでしょうか。それにはいくつかの理由があります。第一は、ウイルス肝炎の患者さんの数が多いことです。日本にはC型肝炎の患者さんが約200万人、B型肝炎の患者さんが約150万人いるとされています。これに対し肝臓専門医は約4千人であり、単純計算すると専門医一人当たり800~900人の患者さんを担当することになります。当然、専門医の偏在の問題もあるので、効率良い診療を行うにはかかりつけ医の先生方にご協力いただく病診連携が必要になります。第二は、ウイルス肝炎患者さんは肝発癌の高危険群であることです。B型肝炎では比較的若い年代で肝硬変がなくても肝細胞癌を合併することが多く、またC型肝炎では多くの症例が感染から数十年の経過で肝硬変から肝細胞癌に進展します。このため、肝がん早期発見のための定期的な検査、例えば腹部超音波検査が必要となり、肝臓の画像診断ができる施設との連携が必要になります。第三に、C型肝炎を発見されても必ずしも適切な治療に結びついていないことです。C型肝炎は症状がないことが多く、また、ALT値も比較的低く、肝炎があっても基準値範囲内を示すことが珍しくはありません。このため、疾患の危険性が認識されずに放置されてしまうことが多く見られます。この様な事態を改善するためには患者や医療関係者の啓発が必要とされています。講演会などを通じてウイルス肝炎の真実を伝えることは病診連携の重要な任務です。最後に、最近はB型およびC型肝炎の抗ウイルス療法が大変進歩し、さらに進歩を続けていることです。C型肝炎では多くの患者さんでウイルス排除が可能になっていますし、B型肝炎ではウイルスの活動性を長期に抑制することが可能です。これらの抗ウイルス療法を行うには専門的な知識が必要であることは言うまでもなく、病診連携の最も重要な部分と理解されています。厚労省がインターフェロン治療について医療費の補助を行うのはこのためで、できるだけ多くの患者さんでウイルス排除の効果が得られるようにすることが大きな目標の一つです。
肝疾患診療相談センターは平成20年10月1日に開設され、同日から活動を開始しています。ここでは患者さんからの質問にお答えするとともに、医療機関や医療関係者からの問い合わせにも積極的に対応しています。相談センターでは2名の専任の職員が相談の電話に対応しています。1名は看護師でもう1名はソーシャルワーカーです。電話で受けた相談は、その日の内に専用の用紙にまとめ、これを医師に渡します。相談に対応するのは肝臓病を専門とする消化器内科の医師であり、曜日ごとに当番を決めて対応しています。相談内容が記載された用紙を受け取った医師はこれを元に対応を検討し、相手の都合に合わせて電話で連絡し相談に乗ります。相談は、話し始めると時間がかかることが多く、簡単な仕事ではありませんが、専門医としてのプライドを持って、できるだけ丁寧で相手の役に立つ対応を心がけています。医師側にも都合があるため、相談者には1週間以内に連絡すると伝えていますが、可能な範囲で早めに連絡するよう努めています。相談内容はウイルス肝炎とこれに関連した疾患のみとしています。
肝炎に対する正確な知識の普及も拠点病院の重要な任務です。今後、研修会などを通じて医療関係者に最新の情報を提供すると共に、市民講座などで患者さんやその家族にも情報を提供していく予定です。また、長野県の各地域には肝炎患者の会があり、それぞれ、または共同してウイルス肝炎の患者さんのために活動しています。この肝炎患者の会とも連絡を取って、より広い活動ができればと考えています。
最後になりますが、この肝炎対策の仕事は皆様のご理解とご協力を必要としています。大変意義のある仕事と考えますので、是非ご支援下さい。